芦ノ湖の水を箱根外輪山の向こうへ導く用水
深良用水は、神奈川県箱根町の芦ノ湖北西岸から取水し、湖尻峠の下を横断して静岡県裾野市の深良川へ水を届ける用水です。江戸時代初期、富士山の火山性の土壌などの影響で地表水が得にくかった深良村周辺では水田や生活の水の確保が課題でした。現在も裾野市・御殿場市・長泉町・清水町の二市二町の農業用水として利用され、水力発電にも関わっています。湖を取水源とする用水路であり、芦ノ湖自体をダムと呼ぶものでも、用水路の水がそのまま水道水として配られるものでもありません。[1][2][3][9][11]
大庭源之丞と友野与右衛門が実現した開削
深良村の名主・大庭源之丞が湖水の導水を構想し、土木工事の経験を持つ江戸浅草の商人・友野与右衛門らの協力で事業が進みました。幕府の許可を得た1666(寛文6)年8月頃に工事を始め、芦ノ湖側と深良側の両方から掘り進めました。裾野市は箱根権現の別当・快長の理解にも触れています。農林水産省の紹介では友野の名を「与左右衛門」と表記する資料差があり、人物が別であると断定するものではありません。[1][3][4][6]
1670年2月25日貫通と4月25日通水の違い
裾野市は1670(寛文10)年2月25日に隧道が貫通し、同年4月25日に通水したと明記しています。前者は両側から掘ったトンネルがつながった日、後者は湖水を流し始めた日です。工事は約3年半、参加した作業員は延べ約84万人、当時の工費は約7,400両と県と国が紹介しています。これらは歴史上の工事規模で、現在の年間維持費や人数ではありません。[1][3][6]
全長約1,280mの隧道と湖尻峠下の勾配
深良用水隧道は芦ノ湖の深良水門から約80m下流の呑口を起点に、湖尻峠の下を抜け、裾野市深良の下穴口へ通じる約1,280mの手掘りトンネルです。静岡県は取水口と出口の標高差を9.8m、トンネル内の平均勾配を250分の1と記しますが、裾野市の別の解説は平均勾配を130分の1とします。両者の算定区間・定義の違いは一次資料から確定できないため、値を勝手に一本化しません。1,280mもトンネル区間の長さで、下流の農業用水路全線の総延長ではありません。[1][2][3][5]
合流点の1mの段差と素掘りの技術
ノミやツルハシなどで硬い岩盤を掘り、両側から進む工法で隧道を貫きました。中央部で出会う地点には約1mの段差が見られます。県の解説は測量誤差という説明と、水勢調整のため意図的に付けたという説を併記しており、どちらかを確定した史実として記しません。通気用の息抜き穴や煙抜き坑と考えられる坑道、岩盤の矢穴痕などが確認されています。裾野市は当時の詳しい測量方法について確実な記録が残っていないと明示します。[1][3][5]
深良水門は1910年・1989年に設備を更新
芦ノ湖北西岸の深良水門は、神奈川県箱根町元箱根に位置し、湖水を深良用水へ取り入れる施設です。静岡県の施設資料によれば、1910(明治43)年に木造水門から石造りの鉄扉へ改造され、1989(平成元)年には旧水門の補強とコンクリート造りの補助水門の新設が実施されました。現在見られる水門を1670年当時の木造設備そのものとは説明しません。湖側の深良水門と裾野市側の隧道出口は別地点です。[2]
深良川から二市二町の農地へ
芦ノ湖から隧道を通った水は裾野市の深良川へ流れ、さらに黄瀬川流域の水路を経由して農業に利用されます。裾野市は2025年更新の紹介で、裾野市内をはじめ御殿場市・長泉町・清水町にまたがる約530haの農地を潤すと説明します。この面積は紹介資料時点の受益農地の概数で、隧道の面積や芦ノ湖の湖面面積ではありません。明治時代以降には用水の流れを利用した水力発電も行われています。[1][2][3][8]
流量の紹介値と水質・飲用条件を区別
農林水産省の施設解説には、最大毎秒約10m³、通常毎秒約1m³程度の供給があると記載されています。ただし公開解説の記述に対応した観測時点や測定地点を特定できないため、2026年現在の実流量・日々の運転値・水門の公称取水許可量として断定しません。裾野市は2015年8月の隧道調査で時速約4kmの水流を観測したと紹介しますが、これも特定日の速度です。水は農業・発電等に利用されますが、用水の水質値がそのまま上水道の水質を示すとはしません。[3][4][6]
現役施設としての春秋点検と2026年10月の水止め
静岡県芦湖水利組合は裾野市・御殿場市・長泉町・清水町で構成される一部事務組合で、用水の維持管理に携わっています。農林水産省は春・秋の年2回、水門を閉鎖して隧道を点検すると説明します。2026年10月13日には裾野市の広報無線が隧道点検に伴う深良川の水止めを案内し、再放流時に河川水位が急上昇する危険を注意喚起しました。点検が行われることは内部の一般見学が可能であることを意味せず、通水・停止時を問わず河川内には立ち入らないでください。[4][6][9][10]
世界かんがい施設遺産、疏水百選、選奨土木遺産
深良用水は2014年9月16日に国際かんがい排水委員会(ICID)の世界かんがい施設遺産に登録されました。農林水産省の疏水百選にも選ばれていますが、裾野市資料には2005年選定と記すものがあるため、年次は出典を分けて扱います。さらに隧道は2023年度の土木学会選奨土木遺産として認定されました。この三制度は同じ文化財指定ではなく、国宝や国重要文化財に指定されたと表現しません。[3][5][7]
展示室・下穴口の見学と立入の区別
裾野市民文化センター2階の「深良用水特別展」には、芦ノ湖から深良川・黄瀬川流域への模型、当時の掘削・測量道具、隧道内部の映像・ジオラマなどが展示されています。市の案内では入場無料で、センターは9~21時開館・月曜等休館です。裾野市深良側の下穴口へは岩波駅から徒歩約70分と案内され、専用駐車場はありません。静岡県は芦ノ湖側の水門への別のアクセスを示します。隧道内部は市が「一般には立ち入ることのできない」と明記しており、現地での無断入坑は禁止されます。[2][3][4][8][9]
Deep research
神奈川県芦ノ湖側の深良水門と静岡県裾野市深良側の下穴口を結ぶ1670年通水の現役農業用水を、2025~2026年の県市資料で調査。水門と隧道の歴史、1,280mの範囲、勾配資料差、維持管理・公開条件を分離する。
最終確認:2026-11-04
施設データを詳しく見る
- 掘削開始
- 1666年8月頃
- 隧道貫通
- 1670年2月25日
- 通水開始
- 1670年4月25日
- 隧道の延長
- 約1,280m
- 取水口~隧道出口標高差
- 9.8m
- トンネル平均勾配
- 1/250/1/130
- 歴史上の掘削人数・工費
- 延べ約84万人・約7,400両
- 受益農地面積
- 約530ha
- 農水省の紹介流量
- 最大約10m³/秒・通常約1m³/秒
- 遺産認定
- 2014年ICID・2023年度土木学会
幕府の許可後、芦ノ湖・深良両側から進めた工事
裾野市の年表。通水は同年4月25日
2020年4月25日に通水350周年
湖尻峠下の用水トンネル区間。全用水路の総延長ではない
静岡県施設概要の値。トンネル内だけの水位差と区別
静岡県施設概要/裾野市解説の順。計測区間・定義差は未確認
1666~1670年の歴史的工事規模
裾野市2025年更新の二市二町の農地に関する概数
掲載時の説明値。2026年現在の観測実績や許可量ではない
世界かんがい施設遺産と選奨土木遺産は別制度
水の流れ:芦ノ湖から湖尻峠を越えて深良川へ
- 1
芦ノ湖の湖水
神奈川県箱根町にある湖の北西岸が取水地点。芦ノ湖自体はダムではない。
- 2
深良水門で取水量を調節
箱根町元箱根の水門。1910年に石造鉄扉へ改造、1989年に補助水門等を整備。
- 3
水門から隧道の呑口へ
深良水門から約80m下流に用水隧道の取入口がある。水門と隧道の入口は別設備。
- 4
湖尻峠下の隧道1,280mを通過
1666~1670年に両側から手掘りした水路。標高差を利用して流れる。
- 5
裾野市深良の下穴口へ流出
静岡県側の用水隧道出口。記念碑があり、内部は一般入坑不可。
- 6
深良川から黄瀬川流域の水路へ
地表水路に入り、地域の用水・分水系統へ配分する。
- 7
農地のかんがい・水力発電等に利用
裾野市・御殿場市・長泉町・清水町の農業等を支える。飲用水道への直接供給とは説明しない。
開削・水門更新・遺産認定・維持管理の年表
芦ノ湖・深良両側から隧道掘削に着手
幕府の許可後、大庭源之丞・友野与右衛門らの協力で工事を開始。
深良用水隧道が貫通
約1,280mの手掘り水路がつながる。
芦ノ湖からの通水開始
農業用水として静岡県側への送水が始まる。
水力発電・産業用途にも利用
農業用水に加えて、水流を利用した発電が行われる。
深良水門を石造鉄扉へ改造
木造水門からの更新。1670年当初の構造がそのままではない。
旧水門補強・コンクリート製補助水門新設
静岡県の現行施設概要に記載された更新。
疏水百選に選定
裾野市は2005年と記載。別の紹介に2006年の表記があり、年次は確定しない。
世界かんがい施設遺産に登録決定
ICIDによる初年度登録。国指定重要文化財とは別制度。
裾野市が隧道内の水流を撮影
市は同日測定の水流速度を時速約4kmと紹介。現在の平均速度ではない。
通水350周年
芦湖水利組合と裾野市が記念映像・冊子等を制作。
用水隧道が土木学会選奨土木遺産に認定
全線の国重要文化財指定とは異なる評価制度。
秋の隧道点検に伴う水止め
裾野市が深良川の水位変化と立入危険を周知。維持管理が継続する現役施設。
見学・アクセス情報
深良用水は芦ノ湖側と裾野市側に出入口が分かれる運用中の水路で、隧道内部は一般入坑できません。外観の公開場所と、裾野市民文化センターでの展示・VR映像を利用してください。
- 深良川側の下穴口
- 静岡県裾野市深良。市はJR岩波駅から徒歩約70分、東名裾野ICから車約20分と案内
- 下穴口の駐車場
- 裾野市の案内では専用駐車場なし
- 芦ノ湖側の深良水門
- 神奈川県足柄下郡箱根町元箱根。水門は湖の北西岸、隧道呑口は約80m下流
- 芦ノ湖側への交通
- 静岡県は箱根レイクホテル前バス停から徒歩約26分、または裾野IC方面から車・徒歩と案内
- 隧道内部
- 一般の立入・入坑は不可。裾野市がVR・動画を公開
- 深良用水特別展
- 裾野市民文化センター2階(裾野市石脇586)。入場無料、模型・道具・映像を展示
- 展示施設の開館
- 裾野市案内は9~21時、月曜日・祝日の翌日休館。最新の施設予定を事前確認
- 増水・水止めへの注意
- 春秋点検の水門再開後は深良川の水位が急に上がるおそれ。河川内に入らない
見学目的でも門・柵・管理区域を越えず、管理者が案内する公開条件と指定経路に従ってください。
農業用水・発電用水と水道水質は別
水源は芦ノ湖の湖水で、用水は農業や水力発電等に使われています。農林水産省の最大10m³/秒・通常約1m³/秒という掲載値は、その解説の時点・定義によるもので、2026年の日常実流量とみなせません。裾野市の2015年調査時の流速約4km/時も特定日の観測です。用水の水質を水道法上の給水栓水質と同一視する一次資料はなく、歴史的な生活用水の利用を現在の飲用水道供給と断定しません。点検時の放流は水位急変の安全上の問題として管理されています。[3][4][6][10]
よくある質問
深良用水はどこにありますか?
芦ノ湖の北西岸・神奈川県箱根町元箱根の深良水門から、静岡県裾野市深良の下穴口へ通る水路です。
深良用水はいつ完成しましたか?
1666年に工事を始め、1670年2月25日にトンネルが貫通、同年4月25日に通水を開始しました。
誰が深良用水を造ったのですか?
深良村の名主・大庭源之丞が計画し、江戸の商人・友野与右衛門らの協力で実現しました。
深良用水の長さは1,280mですか?
1,280mは湖尻峠の下を貫く用水隧道の長さです。深良川やその先の農業用水路を含む全水路の延長ではありません。
トンネルの勾配は1/250と1/130のどちらですか?
静岡県の施設概要は1/250、裾野市の解説は1/130としています。計測区間・指標の差が確定しないため、両方の数値と出典を併記します。
貫通点に1mの段差があるのはなぜですか?
測量誤差という説明と、水勢の調節に使うため意図的に造ったという説が静岡県の公式解説にあります。どちらか一方を確定できません。
深良用水は今も使われていますか?
はい。裾野市など二市二町の約530haの農地で使われ、水力発電にも関わります。2026年10月にも隧道点検が周知されています。
深良水門は江戸時代のままですか?
いいえ。1910年に石造鉄扉へ更新され、1989年には補強と補助水門新設が実施されました。
深良用水は世界遺産ですか?
2014年にICIDの世界かんがい施設遺産に登録されています。ユネスコ世界遺産や国宝とは別制度です。
深良用水トンネルの中を見学できますか?
トンネル内部への一般入坑はできません。裾野市が公開するVR映像や、市民文化センター2階の無料特別展を利用できます。外観は現地の公開範囲から見学してください。
深良用水(深良用水隧道)を理解するための要点
本ページでは、深良用水(深良用水隧道)を静岡県・裾野市(取水口は神奈川県箱根町。御殿場市・長泉町・清水町にも供給)の疏水施設として記録しています。以下は掲載資料から確認できる基本情報です。
- 記録上の所在地
- 静岡県裾野市深良(隧道下穴口・深良川側)。取水口・深良水門は神奈川県足柄下郡箱根町元箱根
- 施設種別
- 疏水施設
- 年代・供用状況
- 1666年(寛文6年)8月頃掘削開始、1670年(寛文10年)2月25日貫通、同年4月25日通水
- 構造・形式
- 芦ノ湖北西岸の深良水門、湖尻峠下の両端手掘り素掘り用水隧道(約1,280m)、深良川側下穴口、下流の用水・分水系統。水門は1910年改造、1989年補強・補助水門増設
- 能力・規模
- 隧道延長約1,280m、芦ノ湖側取水口と出口の標高差9.8m。農林水産省の施設紹介は最大約10m³/秒・通常約1m³/秒と記載(資料時点の紹介値。現在の実績ではない)
- 文化財等
- 2014年9月16日ICID世界かんがい施設遺産に登録。疏水百選にも選定(年次の資料差あり)、2023年度土木学会選奨土木遺産。国宝・国指定重要文化財の指定とは異なる
施設の機能と地域での役割
水路・隧道・水路橋などは、水を運ぶ経路や関連設備です。用途は施設によって異なるため、上水道だけに限定せず、送水先や地域での役割を本文で確認してください。 この一般的な役割と、上記の調査本文に記載したこの施設固有の歴史・構造を分けてご覧ください。
見学・現地確認について
掲載上の見学情報は「裾野市深良側の下穴口付近は公式の見学案内あり(内部入坑不可)。芦ノ湖側深良水門は県の現地アクセス案内あり。裾野市民文化センター2階の深良用水特別展は一般公開」です。公開日、受付方法、見学可能範囲は変更されることがあります。訪問前に管理者や自治体の最新案内を確認し、現地では指定された見学経路に従ってください。
掲載内容はページ末尾の出典・参考資料11件を基に整理しています。資料間で表記が異なる場合は、自治体・管理者の案内を優先してください。
所在地マップ
静岡県裾野市深良(隧道下穴口・深良川側)。取水口・深良水門は神奈川県足柄下郡箱根町元箱根
地図を読み込むとGoogle マップへ通信します。
地図は公開住所をもとに検索表示しています。施設の管理区域には立ち入らないでください。
地図検索:公開住所による地図検索 ↗関連タグ
出典・参考資料
- 1静岡県「東部地域施設概要:深良用水隧道」(1,280m、標高差9.8m、勾配、1666~1670年の工事)↗本文に戻る ↑
- 2静岡県「東部地域施設概要:深良水門」(芦ノ湖取水、1910年改造・1989年補強、隧道呑口まで約80m)↗本文に戻る ↑
- 3裾野市「深良用水」(2014年世界かんがい施設遺産、1670年2月25日貫通・4月25日通水、用途、約530ha)↗本文に戻る ↑
- 4裾野市「深良用水」(深良側下穴口、内部非公開とVR動画、現地見学案内、芦湖水利組合)↗本文に戻る ↑
- 5裾野市「深良用水『用水隧道』土木学会選奨土木遺産」(2023年度の認定、素掘り構造、調査・測量の不確定性)↗本文に戻る ↑
- 6農林水産省「江戸時代に掘られた水路トンネル深良用水」(工事規模、紹介時の流量、春秋の点検)↗本文に戻る ↑
- 7静岡県「静岡県の世界かんがい施設遺産」(2026年更新、2014年登録・施設概要資料)↗本文に戻る ↑
- 8裾野市「深良用水特別展」(水の経路模型、道具、映像、裾野市民文化センター2階)↗本文に戻る ↑
- 9裾野市「深良用水ダムカード(かんがい施設カード)」(芦湖水利組合の構成、展示入場・配布条件)↗本文に戻る ↑
- 10裾野市「無線放送の内容・令和8年10月分」(2026年10月13日の隧道点検と取水再開後の水位注意)↗本文に戻る ↑
- 11静岡県「深良用水 世界かんがい施設遺産 概要資料」(史実・農業・管理組合)↗本文に戻る ↑
年代・出典の扱いと現役施設を確認するときの注意はアーカイブの読み方・見学ガイドにまとめています。